花ハウスだより

歳月重ね故郷愛し【花ハウスの人々2】

 特別養護老人ホーム「よみうりランド花ハウス」に入所して約1年になるSさん(79)の楽しみは、高校時代まで過ごした故郷・新潟県五泉市の写真を見ることです。居室の本棚には故郷で撮影した写真の入ったミニアルバムがあり、壁には実家から冬の田んぼ越しに山なみを望む冬景色の写真が飾られています。

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 筆者がSさんを知ったのは今年夏です。新潟県出身の介護職員に、「自分も生まれたのは新潟」と伝えると、「それなら」とSさんを紹介していただきました。Sさんに会って話をすると、Sさんの実家は五泉市で、筆者が子供の頃、毎年のように帰省していた祖父母の実家がある旧村松町の隣でした。旧村松町は合併で今は五泉市の一部となっています。思いがけない出会いに感謝し、Sさんと話をするようになりました。

 Sさんは大学進学とともに上京し、旅行会社に就職。首都圏に居を構え、海外旅行の企画・運営に携わってきました。登山が得意で、中央アジア・シベリア・極東地域や、コーカサス地方の山々に関する著作もあります。

 世界各国を旅してきたSさんでしたが、日本のように季節ごとに豊かな表情をみせる国は少ないといいます。年を経るとともに、よみがえってきたのは実家で過ごした少年時代の記憶です。長い冬ゆえに待ちわびた春の喜び、川魚や山菜といった豊かな自然の恵みがいとおしく感じられます。

 故郷を出て半世紀になる2011年から12年にかけて、Sさんは故郷の五泉市民新聞に「ああ故郷 五泉を出て半世紀」と題するエッセーを連載しました。そこに、こんな一節があります。「生まれ育ったところが大都会から遠くはなれた田舎であればあるほど年を経るとともに、その郷里と幼いころの輩に思いをはせるのかもしれない」。年とともに故郷のありがたみは増しています。(剛)


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