花ハウスだより

小学生の自分に寄り添ってくれたあの人へ~痛み知るから相手の立場に立てる【花ハウスの人々12】

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 人生を左右する出来事。今年夏、副主任に昇格したTさん(29)は、小学5年生のときの経験を心に刻んでいます。

 家庭の事情で、児童相談所に暮らしていました。おもちゃを壊す、大人の言うことを聞かない、周囲を困らせる悪ガキだったといいます。あるとき、女性職員から呼び出されました。「何やっているの」。見たこともない真剣な表情。あっ、本気で叱ってくれているんだ。そう思ったら、涙が止まらなくなったそうです。

 「子供がいたずらする理由は様々ありますけど、自分は根っこに寂しさがあった。職員は、そこに寄り添ってくれたんです」。Tさんにとって、この職員は恩人です。

 母との折り合いが悪く、母以外の大人とも話す機会はありませんでした。それだけに、大人の愛情が心に染みたのかもしれません。

 親とは暮らせなかったから、その後は施設で暮らしました。定時制高校で学び、施設で経営するデイサービスで実習生として働きました。お年寄りの話し相手になってみると、面白いと感じたそうです。大人と話す経験があまりなかったから、新鮮だったのかもしれません。

 凍り付いていた心を溶かしてくれた彼女への感謝の気持ちから、福祉の道に進みたいと考え、高齢者介護を選びました。「あの経験があるから、今の自分がある。人よりも痛みを感じる経験を重ねたから、相手の立場がわかる」。そう思えるようになりました。幼少期の辛い体験がトラウマにならなかったのは、あの人のお陰かもしれない。機会があれば、感謝を伝えたいと、Tさんは考えています。

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(入所者様に焼き芋を食べてもらう行事にて)

物事をいろんな方向から見る

 Tさんは高校を卒業して、すぐによみうりランド花ハウスに入職しました。最初の5年間は、言われたことをこなすだけだったそうです。「若気の至りもあって遊んでばかり、ろくな成長もできず、だらだら過ごしてしまった」

 でも、「ヤンキー」みたいに見えた同僚が勉強して介護の資格を取ったのを見て、自分も頑張らなきゃと奮起します。実務者研修、介護福祉士と資格をとって知識が身につくと、介護への意識が変わりました。「物事をいろんな方向から見る楽しさを知りました」

 例えば、こういうことです。転ぶ恐れのある入所者様にどう接したらいいか――。立ち上がったことを知らせるセンサーを取り付けるという方法はだれでも思いつきます。でも、ベッド周りの家具の配置を変える、歩きやすい環境を整備する。立ち上がる前に特有の仕草を見つける、といろんな角度から考えることもできます。「そうした情報を職員で共有すれば、センサーよりも早く、入所者様の危険を察知できることもあります」

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「作業」と「介護」の違いとは?

 いろんな環境で仕事をしてみたいからと、退職も考えていたTさんでしたが、親しかった先輩の副主任が退職し、後任に推薦されました。「役職者になるには知識や経験も不足しており、もっと一般職として経験を積みたい」と最初は断りました。だが、いろんな人と話をするうちに、「不安はあるが、せっかくの機会。出来ることを着実にこなし、できる幅を増やしていこう」と受けることにした。

 介護の仕事で大事なのは、相手の立場に立ち、自分の頭で考えることです。何より入所者様を知らなければいけません。外から見て、同じように水分や食事を提供しているように見えても、入所者様おひとりおひとりをよく知り、深く考えているか。「介護」と「作業」を分けるのはそこだと、Tさんは考えています。「考えなければ、何もできないのが介護という世界。そこにたどり着いたのは、本当に最近のことなんです」。Tさんは照れ臭そうに話してくれました。(剛)

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