花ハウスだより

〽「ありがとう」は当たり前の言葉じゃなくて~【花ハウスの人々16】【花ハウス20周年対談1・前編】

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 来年3月に「よみうりランド花ハウス」が20周年を迎えるのを記念して、若手とベテランの職員に対談をスタートします。花ハウスの介護を考えます。まずは2階の主任で入職13年目のIさん(38)と、入職2年目の3階のHさん(30)の対談を2回に分けて紹介します。

 花ハウスがオープンした2005年、Iさんはドライブが大好きな大学生でした。コンビニでアルバイトをして、平井堅を聞きながら夜景のきれいな場所を疾走していたそうです。Hさんはクラブチームに所属するサッカー少年でした。身体が大きくて、「ガキ大将」のようなタイプで、いじめを見ると、相手が年上でも『ダメでしょ』と止めに入っていました。

笑いながら年をとれる場所

 2人が介護という仕事を選んだ理由から聞きました。

 まずはIさんからです。「祖父母と同居する家庭に育ちました。年齢を重ねるうちに、身体が自由に動かせなくなっていく祖父母の姿を寂しい思いで見ていたんです。でも、そんな祖父母が何かができなくなった場面で、親は『しょうがないよね』とさりげなく接していました。『えっ、こんなこともできないの』なんて騒いだら、本人に嫌な思いをさせてしまいますからね。自分も子供ながらに、祖父母の老いを優しく受け入れる親の姿に共感し、笑いながら年をとってもらいたいという家の温かい雰囲気を感じていました」

 Iさんは大学卒業後、「とりあえず就職しなきゃ」といったんはアミューズメント系の会社に入ったそうです。でも、自分のやりたい仕事ではないと感じて、どんな仕事がいいかと考えたとき、祖父母との穏やかな暮らしや、それを支えた親の姿を思い出し、介護へと導かれました。

 これまで花ハウスの何人もの職員に「なぜ介護の仕事を選んだの」と尋ねましたが、「親の介護する姿を見てきたから」「家族が介護の仕事についているから身近に感じた」など、家族に影響されたというケースが少なくありません。

 一方、Hさんは、建設現場でコンクリートを流し込む型枠をつくる大工の仕事を10年近くしたあと、一昨年に未経験の介護職として花ハウスに入りました。「体力に自信があったので力仕事をしていましたが、人と話をするのが大好きでした。だれかから必要とされることに喜びを感じる性格だったから、介護の仕事をやってみたいなと思ったんです」。人から悩みごとの相談を受けることが「趣味」という時期もありました。いじめにあったり、生きる目的を見失いそうになったりした人に会うと、とことん時間をかけて話をすることがあったそうです。

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小さな幸せを大切に 

 Hさんは、実際に介護の仕事に就いて、どんなことを感じているのでしょう。

 「ご利用者様はどんな小さなことでも『ありがとう』って言ってくれます。お茶を配ったり、食事を介助したり、いろんなサポートをするたび、たくさん受け取る言葉ですが、その裏側にある気持ちは一つとして同じじゃない。何げない一言もあれば、心からの感謝もある。小さなことを大事にしたいので、『ありがとう』を当たり前とは思わないようにしています」

 施設に来るまで、お年寄りはそれぞれに長い人生を歩まれてきました。そして、身体の機能が低下したり、家族と別れて暮らすことになったりと、いろんな悲しみを味わった方もいらっしゃいます。その方がどんな思いで、「ありがとう」の一言を発しているのか。そこを見つめたいとHさんは言います。

 その気持ちはIさんも同じようです。「『ありがとう』を当たり前と思いたくないというのはヒジョ~~に同感です。でも、自分はその思いを言葉にするのに7-8年かかりました。3年目でその言葉が出てくるのは驚きです。元々の人間性もあるだろうけれども、日々、ルーティーンの作業に追われるだけの忙しい現場では生まれない気持ちです」

 よみうりランド花ハウスは、全室個室でリビングのスペースを備えた特別養護老人ホームです。花ハウスの介護職員の合言葉は「介護は作業ではない」。利用者様おひとりおひとりに合わせた個別ケアを提供しています。利用者様に声をかけ、様子をうかがいながら、状態の変化に心を配りながら、その人にとって望ましい介護は何だろうと考え続けます。

人と人との接し合い

 Iさん「介助は、利用者様にとって介護保険にもとづくサービスだし、介護職にとっては給与をもらう仕事。ただ、利用者様と接するなかで、人として気に掛けるし、手を差し伸べたいと思う。利用者様とのかかわりで学び、成長していく。何気ない言葉や行為でも、一つとして同じことはない。H君は、その大事さをすごく感じているのだと思います」

 Hさん「仕事というより日常生活と考えるとわかりやすいです。介護は人と人との接し合い。そこで相手の感情をくみ取り、向き合うことから、楽しみがうまれます」

 Iさん「施設では、早番や日勤、遅番、夜勤という勤務があり、それぞれ、やることはある程度きまっている。それを仕事と考える人もいるけど、自分は違います。その時間帯に出勤し、利用者様に対応することが仕事だととらえています。その時々で対応は違います」

 介護には仕事と割り切れない部分があります。人としてどうしたいかという根源的な部分です。決められた時間に決められたことをやらなくてはいけないという制約の中で、どう利用者様と向き合うか。人としての度量が問われます。

 その心構えとして、2人は「ありがとう」を軽くとらえない、その背景をよく考える、という共通した姿勢を持っていました。ふと頭に浮かんだのは「〽さよならは別れの言葉じゃなくて~」という昔のヒットソング。「〽ありがとうは当たり前の言葉じゃなくて~」と言い換えてつぶやいてみました。花ハウスの介護の本質を言い表す言葉のひとつかもしれません。次回、IさんとHさんの対談・後編では、将来についても聞いてみます。(剛)

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