花ハウスだより

最初は家政婦さんみたいな仕事~知識や症例より大切な人間への興味【花ハウスの人々19】【花ハウス20周年対談2・前編】

★IMG_2243.JPG 「よみうりランド花ハウス」20周年を記念する職員による対談の第2回は、介護保険制度の誕生とともに介護の仕事を始めたTさん(47)と、専門学校で介護を学び、昨年入職したYさん(25)です。

 花ハウスができた2005年、Yさんは小学校にあがる前でした。記憶にあるのは祖母と散歩していた思い出ぐらい、「何も考えないで生きていました」と振り返ります。一方のTさんは、介護保険が始まった2000年に介護の世界に飛び込み、在宅の介護士として働いていました。

「『介護保険のスタートの年からやっています』というと、「ほ~~」と驚かれるんです(笑)。最初はお手伝いさんとの境目がなく、世間的には家政婦さんの仕事を切り売りする存在ととらえられていました」。Tさんが勤めていた事業所も、もとは家政婦紹介所で、介護保険スタートとともに、在宅介護サービスも始めたそうです。

 Tさんの話を聞きながら、そういえば介護が意外に新しい言葉なんだと気づきました。広辞苑に登場したのは1983年の第3版でしたが、その定義は「病人などを介抱し看護すること」。それが98年の第5版で「高齢者、病人などを介抱し、日常生活を助けること」となったそうです。

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伝書鳩のようにご夫婦を仲介

 Tさんも、最初は生活支援と身体介護の区別があいまいで、介護保険の対象となるサービスも毎年のように変わった、と振り返ります。「仲の良くないご夫婦のもとに行ったときは、直接お話ししない2人の間で、『今日の夕飯は何がいいか聞いてきて』『焼き魚が食べたいそうです』と伝書鳩のようにやり取りを仲介しました。家政婦さんの仕事を切り売りしているみたいでしたが、身体介護を中心にした福祉的な仕事へと変わっていきました」

 そんなTさんの話に耳を傾けるYさんは、専門学校で介護を学びました。好きだったのは『ヘルプマン!』、型破りな発想で利用者主体の介護に取り組む若き男性介護士の奮闘ぶりを描いた漫画だそうです。

 在宅介護の仕事をしていたTさんにとっての試練であり、転機となったのは認知症の方との出会いでした。家族が留守のあいだ、ある女性に入浴してもらうことになっていました。Tさんがお風呂場へと案内しようとしたとき、女性は鏡に向かって話し始めました。「あら、●●さん。久しぶりね」。「会話」は延々と続き、Tさんが何を言っても振り向いてくれません。Tさんはただ、オロオロするしかありませんでした。

 結局、時間内にお風呂に入ってもらうことはできませんでした。「申し訳ありません!」。ご家族に謝ると、「いいんですよ」と優しい言葉が返ってきました。Tさんは、どうしたらうまくできるんだろうと、先輩にアドバイスを求めたり、ほかの認知症の方に派遣してほしいと事業所に掛け合ったりしました。しばらくして、お風呂場に案内する際、女性から鏡が見えないように、鏡と女性の間に体を入れると、お風呂に入ってもらえたそうです。

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個性と仲良くなれば中毒みたいにはまる

 Yさんのフロアにも、洗面台の鏡に話しかける利用者様がいらっしゃるそうで、「参考になります」と感心していました。専門学校で介護を学び、昨年から施設で働き始めたYさんですが、学校で習った通りにはいかないことも多いそうです。

 教科書には、お風呂に入ってもらおうとするときに叫ぶ方がいたら、 「どうして嫌なの?」と話しかけるといいと書いてあったそうです。でも、Yさんが尋ねると、「イヤなものはイヤなのー!」という反応でした。先輩に聞くと、その女性には寒さと怖さの両方の気持ちがあるとのこと。それからは寒くないように手早くするよう心掛けています。

 「教科書で知識や症例を学んだだけでは何もできない。利用者様を人間として興味を持たなければ、介護ができないんだなと学びました」。Yさんの言葉を聞いて、Tさんは深くうなずきました。「利用者様は十人十色、ひとりひとりに個性がある。その個性に興味を持ち、こういう考え方をしているとわかれば、親しい気持ちになる。認知症も個性、その個性と仲良くなっていくことが大事。もっと知りたいと思うと、中毒のようにはまっていきます(笑)」

 対談のなかで、2人からは「十人十色」という言葉が何度も聞かれました。人としての利用者様に興味を持ち、その個性と深くつきあうことが、介護では大事だと教えてもらいました。次回の後編では、自然に安らかに最期を迎えるお手伝いをする施設での「お看取り」について、2人に聞きます。(剛)

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