花ハウスだより

「人生最後の登場人物にしていただいた。嫌なことも不安も吹き飛んだ」「安全ばかりで、ご本人の意思を考えていない自分がいた」【花ハウスの人々23】【花ハウス20周年対談4】

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 よみうりランド花ハウスの創設20年を記念した若手とベテランの介護職員による対談の4回目は、2階の主任、Wさん(44)と入職2年目のAさん(24)です。

 花ハウスは、全室個室に共有の居住スペースが付いたユニット型の特養です。施設にきて19年になるベテランのWさんは、おひとりおひとりの状態に合わせる個別ケアを実践したくて、一部屋に複数人が入居する従来型の施設から転職してきました。

「刑務所にいるようで生きた心地がしない」

 個別ケアという介護の在り方は、当時も今も変わりません。でも、変わったのは「看取り」の対応をするようになったことです。医学的に回復が難しいと医師が判断した場合、ご本人とご家族の考えにもとづき、延命治療は行わず、施設で安らかに過ごしてもらうことを優先する「看取り」の対応を始めました。

 これによって長く生きることだけでなく、生活の質を重視するようになりました。ちょっとしたケガでも施設の責任を問われかねないと、極力リスクを負わないように心がけていたWさんも、ある女性との出会いで考え方を改めたそうです。

 やせて筋力が低下し、歩くと転倒することが多かった。でも、自分でできると感じたことは自分でやりたい方でした。お部屋にセンサーを設置し、反応するたびに部屋を訪れましたが、あるときハサミを手に「もう死にたい」とおっしゃられました。「何もやらせてもらえない。いつも監視されて刑務所にいるようで、生きた心地がしない」と訴えられました。

 Wさんは転倒リスクばかりを考えたケアをすることが女性の生きがいを奪っていたことに気づきました。「そこまで追い詰めてしまっていたことはショックでした。これは自分自身が変わらなければまずい」と感じたそうです。女性の思いをご家族に伝え、「本人の意思を尊重して、やりたいことはなるべくやってもらうようにしますが、そうなると転倒してけがをしてしまうこともあります」と伝え、承知してもらいました。以来、本人の意思がどうなのかを考えるようになっていったそうです。

 興味深げに耳を傾けていたAさんは、「今は普通のように感じますが、当たり前でない時代があったんですね」と口にしました。

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正解は一つではない。5人いれば5通りのケアがある

 昨年春に介護職になったAさんは今、初めて壁に直面しています。Wさんに相談しました。「フロアで自分だけに厳しく接するご利用者様がいらっしゃいます」。認知症のある方で、オムツ交換のとき、Aさんに激しい拒否の態度に出ます。

 「いろんな要因があるんだよね、きっと。ケアって正解は一つではない。職員が5人いれば5通りのケアがある」。Wさんは、そう前置きしたうえで、「あるケアがきっかけで君の顔を覚えて、見た瞬間イヤな気持ちになっているんだったら、小道具のだてメガネや白衣で別な人になってもいい。羞恥心に配慮して布を使ったり、タイマーをみせて『1分で終わらせるからね』と声をかけたりしてもいい。認知症のケアは、より利用者様の情報を集め、引き出しをたくさん用意することが必要。組み合わせることで、その方にとってより良いケアが生まれる」とアドバイスしました。

死のイメージを変えた、入所者様への感謝

 身近な人の死を経験したことのなかったAさんですが、最近、大好きだった入所者様が逝去されました。その入所者様がしばらく前から食事がとれておらず、何があってもおかしくないというタイミングで夜勤につきました。緊張しながら、いつもより頻繁に訪室しましたが、何事もなく朝を迎えました。「お亡くなりになった」と連絡があったのは自宅に戻ってからです。

 知らせを聞くまで、死には怖いイメージしかありませんでした。入所者様の死に直面したら、「もっといろいろしてあげたかった」と後悔の念がこみ上げるだろう、と想像していました。でも、実際に知らせを受けると全く違った感情が湧きあがりました。

 「90何年も生きた、その方の人生最後の登場人物になれた。仕事で嫌だったり、不安だったりしたことを忘れさせてくれるくらい、貴重な経験をさせてもらった」。その方への感謝の気持ちでいっぱいになったそうです。

 その話を聞きながらWさんは、「『(亡くなられたのが)自分が当直のときでなくてよかった」で終わっちゃう人も多いんだけど、そこまで考えることができるなんてすごい」と驚いた様子です。入所者様の最期に立ち会い、入所者様や家族に感謝されるとき、この仕事をしていてよかったと感じます。でも、「人生の最後に登場人物...」とまで思ったことはなかったそうです。自分にない感性をもった若者に、将来の可能性を感じたのでしょうか。Aさんを眩しそうに見つめていました。(剛)

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