認知症の背景にある思いや事実を読み解く「プロの面白さ」――永田久美子先生と意見交換会
認知症の方や家族の支援に取り組みつつ、研究を続けてこられた永田久美子先生(読売光と愛の事業団評議員、介護研究・研修東京センター副センター長兼研究部長)を4月上旬、事業団の運営する3施設にお招きしました。
永田先生は、認知症の本人や家族の思い、可能性を大切に、様々な関係者が力を結集するために開発された「認知症の人のためのケアマネジメント センター方式」の普及活動にも取り組まれています。
この日、3施設を見学したあと、職員約20人と意見交換に臨んだ永田先生が強調したのは、認知症への対応力を高めるには座学より実践の積み重ねが大切であるという点でした。若手職員の気づきやアイデアを反映させ、具体的に実践に移す。効果を実感する成功体験を積み重ねる。ご利用者の変化をとらえ、ケアの効果を可視化し、職員が楽しみながらケアにかかわることが必要と、力説されました。ご利用者の気分の変動とその背景を折れ線グラフにした「センター方式・24時間生活変化シート」という便利なツールもあるそうです。
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徘徊や不穏、拒否、不安、うつ状態、無力感、妄想、幻視......。認知症の方には、BPSDと呼ばれる行動・心理症状が見られます。家族・介護職員は、こうした症状にどう対処したらよいか、頭を悩ませます。永田先生は、「ご利用者の行動を『症状』ではなく『本人の発信』ととらえ、背景にある思いをチームで読み解くプロの面白さを職員間で共有し、同じ方向を向く仲間を増やすことが大切」と言います。
BPSDには、様々な要因が関係しています。長年過ごした家族と離れて施設に入居し、生活環境が大きく変わった。慣れ親しんだ生活用品がなくなった。体調悪化や痛み、痒みをうまく伝えられない。生活環境や体調の改善に向けた取り組みが、症状を抑えることにつながります。ただ、こうした症状の場合に、こうすればいいというマニュアルはなく、ご利用者によって、その時々で、解決策は異なります。
「画一的な対応は有効ではない。その人の行動の背景にある体調、環境、人間関係といった事実を具体的に解きほぐし、個別のヒントをみつける。徘徊したり大声を出したりするご利用者がいたときは『大変だ』ととらえるのでなく、『専門職の腕の見せ所』と発想を転換する。『よくぞ来てくれた』と受け止め、落ち着いてもらえるように集中的にかかわることをチームのミッションとする」という提言をいただきました。
また、具体的なケースについての助言も。眠れないご利用者は、「日中から夕方がカギ、特に午後4時前後からの時間を丁寧に過ごすことが重要。日中、傾眠から目覚めた際の不快感を和らげるために、覚醒時に背中をさする、水分補給を促すといった30秒程度の瞬間ケアが有効」といいます。
帰宅願望のご利用者がいた場合には、なぜ帰りたいのか、その原因をチームで考え、「ここにいたい」と思ってもらえるような環境づくりにエネルギーを注ぐ。利用者が安心できる情報の提供や、楽しいと思える時間の創出が、帰宅願望の軽減につながります。窓際や廊下の突き当りにイスを置くなど、利用者の目線で居心地の良いスペースを設ける方法も有効だそうです。
たくさんの気づきをいただいた永田先生との報告でしたが、認知症に対する考え方は大きく変わりつつあります。「わからない・できない」に注目せず、「やりたいこと・できること」に目を向ける。できる限り、地域で、自分らしく暮らし続けるように支援する。行政の政策決定でも、認知症の方・本人に参加してもらう動きが加速しています。永田先生からは「認知症の人の願いとできることを核に、現場を組み替えていく覚悟を持つべき。そうしないと、政策や施設のあり方が問われることになります」というお話もありました。
最後に、永田先生が編集に携わった「認知症ケアをもっと"楽"に!」という本に、素敵な言葉がありました。「認知症が進むと、記憶はとぎれとぎれになっていきますが、瞬間瞬間に感じる喜怒哀楽はとても豊かです。知的な力に頼れない分、感性はむしろ研ぎ澄まされています。うれしい、楽しい、誇らしい気持ちの余韻は残ります。不快感や悔しさ、怒り、哀しい気持ちは尾を引きます。感性、美しいもの、豊かなものを求める気持ち、年長者としての誇り、他者や子どもを慈しむ気持ちは、それをうまく表せない分、あふれるほどに秘めているのです」
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