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すみれ館だより

人生観や死生観を反映、生と死はつながっている【すみれ館の人々2】

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 特別養護老人ホーム「花ハウスすみれ館」で働くMさん(51)は電話工事や本・雑貨を販売する仕事を経て、介護の現場に飛び込みました。介護職(ケアワーカー)として働き始めて約10年になりますが、「介護は自分の人生観や死生観が反映される仕事」と感じるようになりました。

 好きな作家は破天荒に生きた中島らも。耳にはピアスの穴が並び、「自由に生きる」がモットーです。もちろん人に迷惑をかけたり、傷つけたりしないことが前提ですが、自分が自由でいるためには、相手にも同等の自由が必要。介護職としても、ご入居者様にできるだけ自由に過ごしてほしい。そう考えています。

 辛いのは、ご入居者様が食事や水分を取るのを嫌がったときです。無理強いはしたくないが、口にしないと弱ってしまう。そんなときは、好きなものだけでも食べてもらったり、水の代わりにジュースや紅茶を飲んでもらったりすることもあります。もちろん、薬は服用してもらわないといけません。「自分がされたくないことを、人に強いることはできない。自分が同じ立場だったらと思うと、あまり強く勧められないんです」。苦しい胸のうちを明かします。本人の希望と健康を天秤にかけながら、折り合いをつけるしかありません。

ご入居者様の思い出を聞くのが好き

 介助で欠かせないのはご入居者様の個性を知ること。例えば、食べ物を口の中にため込んでしまいがちな方がいました。飲みこむことも吐き出すこともせず、口がふさがったままだと、水分も取れなくなり、介護職員が指を入れて出してもらうしかなくなります。Mさんは困っていましたが、この方がたまたま栗ご飯をおいしそうに食べたことから、好物は栗だと気づきました。何日か後、Mさんが栗をあげると食べ物をため込まず、飲み込んでいただきました。こんなとき、ささやかな喜びを感じます。

 ご入居者様は、それぞれに長い人生を歩んでこられました。時折、生まれた場所の地名や結婚相手とのなれそめ、嫁ぎ先での苦労といった、昔の記憶の断片を口にされます。一か月に一度くらい、せきを切ったように昔のことを話し始めるご利用者様もいます。「下手な小説よりも面白い話を聞かせてくれることがあります」

 Mさんの趣味は音楽です。大学時代には、当時あまり知られていなかった昔のロックバンド「頭脳警察」にはまり、一人ギターを持って演奏していました。お酒も大好きでしたが、3年前に医者から「このまま飲んでいたらおかしくなるよ」と言われたのをきっかけにやめました。お酒の時間をギターの練習にあてたため、その腕前は上達しています。交代で回ってくるレクリエーションでは得意のギターを手に、ご入居者様と一緒に歌います。坂本九の「上を向いて歩こう」「見上げてごらん夜の星」など、現在のご入居者様が青春時代を過ごされた昭和30年代のヒット曲の反応がいいそうです。

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死は特別なことではないと実感

 自宅復帰を目指す老人保健施設とは異なり、特別養護老人ホームは自宅で暮らすのが困難な方に生活全般の介助を提供する場で、多くの方がそこで人生を閉じるいわば「終(つい)のすみか」です。花ハウスすみれ館では、「よみうりランド花ハウス」と同じく、自然に穏やかに最期を迎えるお手伝いとして「看取りケア」に取り組んでいます。老衰や病気で食事をとることができなくなるなどして、医学的に回復が難しいと医師に診断された場合、本人とご家族の意向をもとに、延命治療を避け、自然に安らかに最期を迎えるお手伝いをします。

 Mさんは、介護の仕事に就いてから、初めて人の死に立ち会いました。こどもの頃、息を引き取った祖父の体に靴下をはかせるように言われましたが、怖くてさわれませんでした。でも、介護の仕事をするうちに、死を特別なことではないと感じるようになりました。

 施設で亡くなる方は、他のご入居者様が食事をし、生活の音がするなかで、静かに旅立たれます。「病院や自宅で亡くなるよりも騒がしい環境だけれど、寂しくないかもしれない。ここに来てから、死ぬことが生きていることの延長にあることを実感しています」

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悔いの残らないように

 自分がかかわることで、ご入居者様には少しでもいい状態で過ごしてほしい。そう思ってケアをしてきたMさんですが、「毎回、だれかが亡くなるたびに、そこまでの道筋がよかったのか」と考えます。後悔の残らないことはありません。

 例えば、買い物に行きたいと願っていても、新型コロナウイルスの流行で外出は控えざるを得ず、結局、願いを果たせないまま亡くなってしまうこともあります。栄養補助剤を飲んでもらおうとすると、顔を背けてしまう。それでも何度か呼びかけて飲んでもらう。そして亡くなったとき、「どうすればよかったのか」と答えの出ない問いを繰り返します。

 相性の悪いご利用者様との関係に悩み、精神的に落ち込むこともあります。「きつい言葉を言われたり、ヒステリーを起こされたりすると傷つくこともあります。そんなときは気分転換して家に持ち帰らないようにしましょう。そう教科書には書いてありますが、なかなかその通りにはいきません」。かかわった人にできるだけハッピーに過ごしてもらいたいとは思っていますが、万能ではありません。「できることには限界はある。できるかぎりのことをやるだけです」。そう割り切ってもいます。

 すみれ館のいいところは、明るい施設で人間関係も悪いところがないこと。職員同士で何でも話せる空気感があるので、何か起きたときにも解決が早いそうです。「消極的にみえるかもしれないけど、悪いことがないことがいいことでもある。それは結構大事な部分です」。Mさんの率直な思いです。

 ※すみれ館では、介護職として働く仲間を募集しています。詳しくはこちらから。

https://www.hana-house.org/sumirekan/job-blog/2022/08/post.html

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