目覚めれば懐かしい風景、色画用紙でお部屋も廊下も和やかに
よみうりランド花ハウスは160床すべてが個室の特別養護老人ホームです。お部屋の壁は、ご利用者様が好きな写真や絵で飾ることができますが、認知症が進んだり、寝ていることが多くなったりすると、少し寂しくなりがちです。そんなときケアワーカーは考えます。
「どんな飾り付けがいいかしら」。4階フロアで介護職として働くTさんとHさんの会話が始まりました。漫画家さんだったご利用者様の居室を巡るやり取りです。「漫画家さんだったらベレー帽やペン、インクじゃないかしら」「作品を飾って展覧会みたいにしたら面白いわね」。あっという間にコンセプトが固まります。
絵が得意なHさんが、はさみで色画用紙を、ペンやベレー帽の形に切り抜きます。TさんとHさんの連携プレー。大きな赤い紙の上に、ご利用者様が描いた動物や兵隊さんの漫画を貼り付けます。言葉を発することは少なくなったご利用者様ですが、時々、作品の方を見つめ、何かを一生懸命に説明しようとしてくれます。壁にかかった自分の作品を目にすることで、記憶が呼び起されているのかもしれません。
桜で有名な福島県三春町出身の女性のお部屋の壁には、満開の桜に包まれた女性の写真がありました。福島の縁起物・起き上がり小法師(こぼし)と、赤べこもいます。
短歌が大好きだった女性の居室には、女性が詠んだ歌が、壁に飾られています。箱根や青森のねぶた祭での旅の思い出を詠んだ歌......。ご利用者様の人生が、居室の壁にも投影されています。
Tさんは「症状が重くなってくると、どうしても居室で過ごす時間が長くなります。ふと目覚めたとき、慣れ親しんだ景色や作品が目に入れば、楽しかったころの思い出がよみがえるんじゃないかと思います」と話してくれました。
絵心あふれるHさんの作品は、居室内にとどまりません。4階のエレベーターを降りると、出迎えてくれるのは廊下を飾る季節感あふれるペーパーワーク。ブラックボードにはマーカーでハローウインやバレンタイン、雛祭りのイラストが月替わりに描かれます。「(ご入所者様には)外の世界と同じように、季節を感じてもらいたいです」とHさんは言います。自信作は、浴室の入り口です。富士山に温泉マーク、そして「花の湯」の看板を作り、銭湯風の和やかな雰囲気に仕上げてくれました。