花ハウスだより

町ぐるみで孤独を減らしたい、「床がやっと見えた」という感動【花ハウスの人々6】

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 よみうりランド花ハウスの地域包括支援センターで働くAさんは、臨床検査技師や介護福祉士、社会福祉士として、医療・福祉の分野でキャリアを重ねてきました。

 岩手県内の高校を出たあと、まず臨床検査技師として20年近く病院で働きました。気になったのは、病院を訪れる高齢者の気持ち。病気や老いに直面したとき、心細くないのだろうか。自分は将来、介護される立場になったとき、どんな気持ちなんだろう。もっとお年寄りや家族に近いところで関わってみたいと、介護業界への転職を決意しました。

 在宅での介護を支援する小規模多機能ホームという施設で、介護福祉士として勤務しながら、社会福祉士の資格を取りました。施設での勤務はご利用者様や家族という枠組みが中心でしたが、社会福祉士の資格をいかして地域という広い枠組みで仕事ができないかと思い、花ハウスにやってきました。2年前には施設の勉強会に参加して介護支援専門員(ケアマネジャー)の資格も取り、着実にステップアップしています。

 地域包括支援センターは、高齢者の生活を地域みんなで支える仕組み(地域包括ケアシステムと言います)の拠点です。高齢者に悩みごとがあると聞けば自宅に駆け付け、どんなサポートが必要なのか、介護サービスをはじめ、行政や自治会、警察、商店街、スポーツ施設の人たちと連携して対応します。持ち込まれる相談から課題を見つけ、解決を目指します。お年寄りの話を聞くことが出発点、センターはお年寄りが困ったときの駆け込み寺です。

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包括支援センターとして地域に配布している「花ハウス新聞」

とにかく聴く

 ゴミを一杯自宅にため込んでいる一人暮らしのお年寄りがいる、という情報が寄せられたとします。自宅を訪問しても、家に入れてくれるとは限りません。「別に困っていることはないから」と話を聞かせてくれないことも多いのです。

 だからこそ、相手が心を開いてくれたときには感動します。例えば、ゴミがたくさんの家に何度も通った末に家に入ることができ、掃除を手伝うまでの関係を築いたこともあります。そこまでしないと本音は聞けないと思ったからです、ゴミが片付いてやっと床が見えたとき、「あっ、ここに床があったんだ」と嬉しさがこみ上げたこともありました。

 誰かに話を聞いてほしくてたまらない、一人暮らしの方もいます。話し出すと止まりません。心がけているのはとにかく聴くこと。何度か足を運んで耳を傾け、持ち帰って同僚と課題と解決策を考えます。「否定的なことを言われても、『そうだね』とまずは受け入れます。一回の訪問があまり長くならないように、相手の反応をみながら通います。気持ちが整ってきたところで、軽い提案をすると、聞いてもらえることが多いです」

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町ぐるみで見守る社会に

 Aさんが担当している地域は坂道が多く、足腰が弱ってくると、転ぶのが怖くて外出できないというお年寄りもいます。「外出が面倒になってねえ」。地域から孤立しがちな方には、日帰り利用で施設に送迎してくれるデイサービスを提案します。

 経済的な苦しさや、精神的な障害を抱えて困っている家庭でも、なかなか本音を打ち明けてくれません。虐待が疑われるケースもあります。お母さんのお金を子どもが使っていたりするときは、子供の就労支援も必要です。川崎市には、失業など経済的な問題や、心の問題、住まいの問題という困難を抱えた人を無料で支援する「だいJOBセンター」(川崎市生活自立・仕事相談センター)があり、連携することもあります。

 「難しいケースでは行政や警察などとチームを組んで、対応策を話し合います。解決には時間がかかりますが、少しでもいい方向に向かうように活動しています」

 Aさんが、仕事を通じて肌で感じているのは、地域の人々が抱える孤独が膨らみつつあるのでは、という心配です。家庭内に閉じこもりがちだったり、毎日同じことの繰り返しだったりして、外の世界と切り離されていくように感じる世帯は少なくありません。だれもが若い頃は福祉サービスなんて自分には関係ないと思っていても、年を経ていつの間にか、その対象になるという現実があります。Aさんは「大学生とか若い人も巻き込んで、町ぐるみで見守りができる、気軽に声をかけられる社会にしたい」と願っています。

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