その人らしい生活を支える仕事~大切なのは満足した最後 【花ハウスの人々20】【花ハウス20周年対談2・後編】
介護保険の誕生とともに介護の仕事を始めたTさん(47)と、専門学校で介護を学び、昨年入職したYさん(25)による対談の後編です。
よみうりランド花ハウスの入所者様の多くは、施設で逝去されます。人生の最終章に伴走しながら、2人はどのような体験を重ねてきたのでしょうか。
Yさんは昨年春に入職してから、入所者様の逝去に3回立ち会いました。一人目の方は、最初にあったときは言葉を交わせるほどお元気でしたが、次第に体力は落ち、食べ物も飲み物もうけつけなくなりました。亡くなられたのは、面会に訪れたご家族の介助でジュースを半分飲んだあとのことでした。
二人目は、衰弱して食べ物を受け付けない日が続いていましたが、あるときご家族に会われると、穏やかな表情になられ、アイスを一口に含みました。旅立たれたのは、その後、しばらくたってからです。三人目の方は、しゃべられないし、目もあいていない状態となりました。それでも、ご家族がそばに来ると表情が変わりました。
どの方も家族とお別れしたあと、穏やかな表情で旅立たれました。ご家族が到着されるのを待ってから、逝去されたように感じた方もいらっしゃいました。看取りの場面は神秘的で、ドラマチックなところがあると、Yさんは感じたそうです。
Yさんは学生時代、病院でアルバイトをしていましたが、受け持った病棟の患者さんの多くは、様々な事情からご家族との関係が途絶えていました。「家族に会いたい」「家に帰りたい」と言いながら、苦しそうな表情でなくなっていく方を何人も見送りました。「比較してはいけないのかもしれないですが、お看取りで何より大切なのは満足した気持ちで最後を迎えられるかどうかだ」と考えるようになりました。
生活することと、その人らしい生活との違い
介護の仕事を一言で表現すると――。そんな問いかけに、Yさんは「その人らしい生活を支える仕事なのかな」と答えました。生活と、その人らしい生活とでは、大きく違います。その人の生活スタイルや好き嫌い、思いを深く知るには、寄り添う必要があります。時間が来たら、何も考えずに「はい、ご飯」「はい、お風呂」と機械的に声をかけるだけでは、その人らしい生活をサポートするとは言えません。
「その人の生活スタイルやこだわり、個性を知って寄り添っていかないといけない。頭でわかっていても、実際に現場に入ると難しい。その人らしい生活なのかなと悩むことはまだあります」とYさんは言いました。
自分の目の前で人の一生が終わる。厳粛な出来事を経験することで、Tさんはお看取りに強い関心を持ちました。人生の最終章では、利用者様のことをどれくらい深く知っているかが問われます。ベッドから起き上がることができず、お部屋で過ごす時間が長くなったあと、その方が好きだった音楽をお部屋で流したり、昔の写真や作品を部屋に飾ったりしました。ふと目を覚ました時に過去の思い出に浸り、少しでも心穏やかに過ごしてもらえるように工夫するのです。それには「元気なうちから、その方の人生を深く理解していないといけない」と言います。
延命のための治療をするべきか、穏やかに旅立つように配慮するべきか、ご利用者様が自分の意思を伝えられない場合、介護職として、利用者様がどのように施設で過ごされていたかをご家族に伝えることもあります。
初めて介護を学ぶのに最適な場所
花ハウスってどんな場所? 最後に2人に聞きました。
Tさん「看取りを経験させてもらったり、認知症の方をケアさせてもらったり、いろんなことを学ばせてもらった。初めて介護を学ぶのに最適な施設だと思う」
Yさん「病院よりも介護士としてできることがたくさんあって、やりがいがある。利用者様の生活の場であり、オウチ。その生活をいろんな人が守っている」
TさんとYさんの年の差は二十歳あまり。でも、介護職としてお看取りに立ち会うことの尊さを熱く語る二人の表情は真剣そのもので、どこか似た雰囲気が感じられました。(剛)