花ハウスだより

子供たちに伝えたい、人生の終わりを支えるという仕事

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 デイサービスのボードに小学生から贈られた大きな「メッセージ樹木(ツリー)」が飾られています。幹には「明るく元気にすごしてください」とマジックで書かれ、枝にはたくさんの花びらの形をしたメッセージがついています。

 デイサービスの職員、Gさんが川崎市立南菅小学校に出向き、4年生のクラスでデイサービスや介護の仕事について授業をしたのは2月末。それから間もなくして担任の先生と授業を受けた生徒5人がお礼に訪れ、授業のお礼にとプレゼントしてくれました。

 「いっぱい通って楽しい毎日を過ごしてください」「動きづらくても毎日元気に過ごしてください」というお年寄りへの励ましや、「大切な福祉のことを教えてくれてありがとうございました」というGさんへの感謝の言葉が咲き乱れています。

 授業に先立ち学校からは、介護職の人が大切にしていることや、子供たちにもお年寄りにしてあげられることを話してほしいという求めがあったりました。

 年を重ねると、今までできていたことができなくなります。体や心の力、人との関係を失っていき、痛みを抱えます。授業でGさんは、そう前置きし、介護は「命の終わりに向かっていくことをサポートすること」だから、お年寄りの心に寄り添うことを何よりも大切にしてると、伝えました。

 児童福祉などの仕事は、今はできなくても、将来できるように子供たちを支えていく、いわば「未来に向かってする仕事」。これに対して高齢者福祉は「人の終わりを支える仕事」です。具体例としてGさんは、体力が衰えて死期が迫った女性にデイサービスの花見に参加してもらったときのことを話しました。

 「あと1,2週間の命でしょう」。医師はそう考えていましたが、ご家族は「最後の花見に連れて行ってほしい」とお願いしてきました。外出して容体が悪化したらどうしよう、デイサービスの職員たちは悩んだ末に、女性のために手厚い体制を組んで連れていくことにしました。

★IMG_7604.JPG         デイサービスに通うお年寄りが何より楽しみにしているのがお花見

 美しい桜にかこまれ、おいしい甘酒をのむと、つらそうだった女性の表情が笑顔に変わります。桜の木のそばで職員が繰り広げるコントでは拍手を送ってくれました。女性のそのときの様子を、Gさんは写真で子供たちに伝えました。

 元気のなかった人が微笑んでくれたとき。職員は充実感を覚えます。花見の写真を見せると、ご家族も「おばあちゃん笑顔だね」と喜んでくれました。

 女性がデイサービスに来たのは、この日が最後となりました。亡くなったのは、それから1か月後のことです。

 Gさんは、次のような言葉で授業を結びました。

 人の命にはかならず終わりがあります。でも、終わりはかならずしも敗北ではないし、悲しいだけでもありません。「しあわせな終わり」もある。私たちのしごとでは、こんな奇跡がたまにおきます――。

 Gさんがデイサービスでの仕事を通じて培ってきた人生観、そして介護観です。お年寄りの気持ちにどこまでも寄り添うことでしか、見えてこない表情や景色があります。

 「高齢者福祉の仕事はみなさんにも無縁ではないですよ」。授業後、子供たちの質問にGさんは答えました。「みなさんのおじいちゃん、おばあちゃんの介護が必要になったとき、介護の仕事をしている人にみてもらうことで、お父さんやお母さんは仕事をしたり、皆さんと過ごす時間をつくったりできるかもしれません」。その言葉に先生は「今の話は大切。みんなで共有しましょう」と生徒に呼び掛けたそうです。

 Gさんは今回の授業について「大切な地域貢献なので、これからも機会があれば続けたい。子供たちがお礼に持ってきてくれたメッセージ樹木は大切に保管します」と満足そうでした。

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