ラーメンづくりと介護はどこが似ているのか【花ハウスの人々25】
自分の人生、このままでいいのだろうか。誰しも思うことがあります。40歳を前にした3年前、Mさんもそうでした。
高校時代にラーメン屋さんでアルバイトを始めてから、20年以上、飲食業界で働いてきました。20代で海外での新規出店を任され、30代でラーメンチェーンのエリアマネジャーになります。管理部門での仕事は、現場で汗をかくのではなく、人や店舗への指導が中心で、ストレスも感じていました。
まったく何か新しいことをやってみたい――。そのとき思い浮かんだのが、介護の世界でした。20代で父を、30代で祖父の介護を経験しました。そのときは苦労とも感じませんでしたが、後になって介護の知識を得て、「介護保険でこんなサービスも受けられたのか」「もっとこうしてあげればよかった」と悔やんだそうです。そして、これから介護サービスを受ける利用者や家族のサポートができないかなと思いました。
風貌は俳優の渡辺謙にどこか似ている
子供のころの疑問を解決
39歳になった年の10月から、介護の仕事につきました。おじいちゃんは、何で同じことを繰り返し聞くんだろう――。子供のころ、認知症の親せきと接したとき、抱いた疑問が解決できるかな、という思いもあったといいます。
介護の仕事は、毎日同じようなことの繰り返しでも、少しずつ違う。同じ利用者様でも、気分や体調が違えば、ご飯を食べる量やスピードも変わります。こちらの声のかけ方や雑談のネタ、自分のかかわり方によって反応はまるで違います。
ご飯を食べておいしいと感じる。だれかと話をして笑顔になる。人間の根源的な営みを支え、人生の最後に立ち会うこともあるのが、介護という仕事です。だれがケアをするかによって、利用者様の反応は全く違います。ほかの職員のときには、コップを手にすることもなく、介助を待つ利用者様が、自分が食事介助に入るときは、コップを手で持って飲んでくれる。そんな「奇跡」も起こります。
フロアの行事ではホストに扮することも
一人ひとり全員を笑わせる
Mさんの1日の目標は、担当する利用者様全員とかかわり、一人ひとりを笑わせること。利用者様ごとに口調やテーマを変えて声をかけ、雑談を振ります。全員に笑顔をもらえる日はそうそうありませんが、日々、新鮮な気持ちで利用者様と接します。
改めて実感するのは、介護はチームワークであるということ。目の前のことだけにとらわれず、ときどき一歩引いて周囲を見る。お互いが気持ちに余裕を持ち、視野を広く持つことで仲間と助け合い、施設の介護が成り立っています。気づいたことはなんでも言い合えるのが理想のチーム。職場では、それに近い関係性があるといいます。
長く続けていると当たり前になってきてしまうことでも、お互いに指摘し合うことで、少しずつ軌道修正していくことが大切。この春、高校を卒業したばかりの職員が入ってきました。彼を教えながら、自分の不足に気づくこともあります。自分ももっと目線を低く利用者様と接しなければいけないな。
職員と利用者様、職員と職員が日々、現場で様々な「化学反応」を引き起こしながら、ケアが交わされていきます。
Mさんは、この春から、副主任の役職を任されました。介護経験は2年余り、自分で務まるのかな、という不安もあったそうですが、言うべきことは言うと意識し、その話に仲間が耳を傾けてくれるたびに、不安は消えつつあります。
蕎麦やうどんと違い、ラーメンに、こうでなければいけないというルールはありません。具材やスープ、麺もいろいろ。多様性にあふれ、自分が好きなように作っていいのがラーメンの面白さです。
加えて、同じ具材とレシピでつくっても、完全に同じ味にはなりません。毎日同じことをしているようで、すべてが同じではない。それが介護と、ラーメンづくりの似ているところ。日々の違いを楽しむ、決まりきったやり方でこなす作業にはしない。ラーメンづくりも介護も同じ、Mさんは、毎日の変化を楽しみながら、その時々で新しい表情をみせる利用者様に向き合っています。(剛)
施設のイベントでは得意のラーメンづくりを披露