花ハウスだより

ロボットが寄り添い、人の心にふれる~覚えていたエーデルワイスの花言葉

★IMG_5907.JPG ロボットは人の心を変えられるのだろうか――。よみうりランド花ハウスを拠点に介護見守りロボットの開発に取り組んできたソニーグループの袖山慶直さんが、研究成果について花ハウスで講演してくれました。

 袖山さんは、人と会話することのなかった利用者様がロボットを前に歌を歌ってくれたり、ご飯を食べたことすら忘れてしまう利用者様がロボットと会った時のことを半年後も覚えていたりと、ロボットと接することでお年寄りの様子が変わったエピソードを紹介してくれました。

 ハナちゃんの居場所は花ハウスの3階です。袖山さんたちは3階の職員の協力を得て、対話したご利用者様の反応を調べました。フェイススケールという表情を評価する指標を用いたところ、笑顔が増えたことを示す結果が得られたほか、発語数も大幅に増えたそうです。ハナちゃんと触れ合うことで、利用者様の表情が豊かになり、脳が活性化した可能性もうかがえます。

 学生時代からロボットを研究してきた袖山さんが、花ハウスで介護ロボットの開発を始めたのは2019年のことでした。介護現場で、どのようなロボットが必要とされているのか、介護職員の動きを見るところから始まりました。

 介護職員の配置は10室からなる1ユニットに原則として1人。職員が排泄介助などで利用者様の部屋に入っている間、ほかの利用者様の見守りが手薄になります。そうなると、ご利用者様は不安になり、「帰りたい」と言い出すことがあります。

 利用者様のそばに寄り添うようなやさしい存在が必要。そう考えた袖山さんたちは、子供の形をしたロボット「ハナモフロル」(ハナちゃん)を開発しました。子供の姿をしたハナちゃんは、身長は2歳児の平均身長にあたる83センチで、テーブルの上に少し顔が出るぐらい、車いすに乗った利用者様が見下ろす高さです。子供の声で話しかけ、簡単な会話だけでなく、歌やクイズ、体温測定もしてくれます。

 利用者様と繰り返し対話するうちに、利用者様の様子も変化しました。誰とも話さなかった利用者様がハナちゃんと「きらきら星」を一緒に歌ってくれたことがありました。「この子が好きなのよ」と孫をかわいがるような様子をみせました。袖山さんは「ハナちゃんを助けてあげたいと考えてくれたようです。ロボットとのやりとりで、こころの交歓が生まれたようでした」と振り返りました。

 施設をしばらく留守にする前、ハナちゃんは、ある利用者様に次のような言葉を掛けました。花の写真を見せて、その名前を答えてもらうクイズのあとだったそうです。「エーデルワイスの花言葉は大切な思い出なんだって、ハナちゃんのこと、ずーっと覚えていてね。約束してね」。利用者様は次のように答えました。「もうすぐしたら天使のところに行くから話してあげるわ、かわいかったって。ハナちゃん」。短期間も記憶を保持するのが難しいご利用者様でしたが、この時のやり取りが長期記憶に刻まれたのか、半年後に再会したとき、ご利用者様はハナちゃんと会った時のことを覚えていたといいます。

 ロボットの開発に協力してきた花ハウスの介護職員は「利用者様は施設の暮らしでのんびりと過ごされているが、ハナちゃんと出会い、刺激をいただいた。ロボットは職員のためというより、ご利用者様のためになると思った」と話しました。袖山さんは「ハナちゃんは、ご利用者さんからたくさんの愛情をいただいた。人とロボットが共生する優しい社会を考えるヒントになれば」と振り返りました。

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