花ハウスだより

認知症高齢者の徘徊事故を防ぐには~4月17日開催花カフェレポート

「認知症と賠償~認知高齢者の列車事故から考える」をテーマに、第13回「みなさんのしゃべり場 花カフェ」が17日午後、よみうりランド花ハウスで22人が参加して開かれました。講師は、長年高齢者福祉の取材を続け、花ハウスでの勤務経験もある読売新聞東京本社社会保障部記者の野口博文さん。野口さんは、愛知県の認知症高齢男性が徘徊してJR東海道線の線路に降り列車にはねられて死亡し、家族がJR東海から損害賠償を求められた訴訟の最高裁判決(2016年3月1日)とその後の関連取材結果を紹介しつつ、家族の監督義務や損害賠償責任を分析、徘徊事故の防止策のあり方について話しました。

講義の後は、参加者らが加わって活発に意見交換が行われ、事故を防ぐには、地域住民が認知症サポーター養成制度の活用などで徘徊高齢者に対する意識を高め、日常的な見守り体制の構築が大事との考えで一致しました。以下、講義の概要をレポートします。

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「最高裁判決の受け止め方」:判決が初めて示した認知症高齢者の監督義務者の判断基準は、①介護者の生活や心身状況②親族関係の有無など③同居の有無や日常的接触の程度④財産管理への関与状況⑤認知症の人の日常の問題行動の有無⑥問題行動に対応する介護実態――の6項目。判決は判断基準をもとに妻や長男は監督義務者ではなかったと認定した。この判決に対しては「認知症高齢者を介護する家族の負担感を和らげる内容。判断基準によって損害賠償責任を負わない家族の範囲は広がるだろう」との積極的評価が多い。一方、「判決内容はあいまいで、家族が一所懸命介護をすればするほど事故の場合の監督義務や損害賠償責任を負わされかねない」と懸念する見方も。

「その後の取材を通じて」:判決の後、認知症高齢者を介護する家族の現状などを読売新聞の紙面で連載した。取材対象者の1人は「妻が徘徊して保護された後、『困るんだよね。ちゃんと見張って貰わなければ』という警察官の言葉が今も耳から離れない。24時間妻のそばにいられないし、縛っておくこともできない」と明かした。別の1人は「一緒に外出しても振り向けば時々いなくなっている。妻の命を守るのは自分だが、そもそも認知症高齢者が1人で歩ける街になっていないことが問題」と指摘した。連載記事への反響は約50件寄せられ、圧倒的多数が「介護家族の24時間の見守りは肉体的、精神的に不可能」というものだった。

「徘徊事故を防ぐには」:判決は別として、不幸にして他人に怪我を負わせたり、モノを壊したりした場合の保険「個人賠償責任保険」が認知症の家族の起こした事故もカバーでき、関心が高まっている。しかし、保険に入れば安心というわけではない。認知症高齢者が徘徊してしまっても安全に自宅などに帰れる地域作りを進める必要があり、それを担うのは私たち1人1人だ。

講演後の意見交換では、どうしたら認知症高齢者が安心して歩ける街を作れるか、という問題が焦点となり、地域の商店などが連携して徘徊高齢者への声掛け運動を行っている西東京市の事例や活発と言われる川崎市多摩区の認知症サポーターの活動などが紹介され、地域ぐるみの日常的な見守りの実践こそ事故防止に繋がることを確認した。

※最高裁判決:愛知県の男性(当時91歳)が2007年12月、同居の妻(当時85歳。要介護1)が数分間うたた寝した間に外出。JR東海道線共和駅ホームで線路に降り、列車にはねられて死亡。JR東海は2010年2月、妻や長男(横浜市在住)らに運行遅延に伴う約720万円の損害賠償を求め提訴。認知症高齢者の監督義務者の範囲などが争点になったが、1審名古屋地裁判決は妻の過失と長男の監督義務を認定し全額賠償を命令。2審名古屋高裁は妻のみに監督義務を認め半額賠償とした。これに対し、最高裁の上告審判決は、妻と長男は監督義務者ではなかったとして1、2審の賠償命令を破棄、遺族側の逆転勝訴が確定。


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