花ハウスだより

自宅で看取る~11月13日開催花カフェレポート

 第19回「みなさんのしゃべり場 花カフェ」が11月13日、よみうりランド花ハウスのデイサービス・ルームで、「自宅で看取る~患者はどう考え、家族はどう行動すべきか~」をテーマに開かれました。講師はたまふれあいクリニック院長(川崎市多摩区枡形)で花ハウスの嘱託医も務める鈴木忠さんで、地域住民ら33人が参加しました。人が誰しも迎える人生終末期の看取りという重いテーマでしたが、鈴木さんは本人や家族にとって自宅で看取ることの意義や家族の対応のあるべき姿、在宅医療の現状や支援の仕組みなどを豊富な経験談を交えて分かりやすく講演しました。

以下、概要をレポートします。

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「いまなぜ『自宅で看取る』なのか」:厚労省の統計では、日本人の約80%が病院で亡くなっている。私はがん専門医を約20年やって来たが、医者仲間では「スパゲティ症候群」などという俗語がある。集中治療室に入った終末期の患者はベッドに横たわって人工呼吸器、心電図、点滴、輸血など多くの管でスパゲティが絡まるように繋がれ、医者も家族も全員でモニターを見つめ、映し出される数字が下がり続けて「ゼロになった!」という言葉が発せられて患者は亡くなる。この看取り方がいいのかと疑問を抱いていたが、ある時、在宅患者の看取りに立ち会った。当然モニターなどなく、家族が周りを囲んで「おじいちゃんはいい人だったね」などと時に笑い声も出る中でのご臨終だった。病院勤務医だった私は強い衝撃を受けたが、自宅で家族を看取るという経験は60歳以下の人にはほとんどないだろう。他方、自分が最期を迎えたい場所については55%の人が「自宅」で、次いで26%の人が「病院などの医療施設」でという調査結果があり、過半数の人が「自宅」を望んでいる。厚労省は在宅医療を推進しているが、実際、数の多い団塊世代の人々が亡くなる時期が来ると病院だけではもはや対応できなくなるだろう。

「現代の『自宅で看取る』ことの課題」:自宅での看取りには4つの足かせがある。第一は物理的な足かせで、核家族化と地域との関わりの希薄化だ。子どもは遠くに住み、親の世話をできないし、近くにいたとしても自分の仕事や生活があって動けない。地方と違って隣近所で世話をし合う付き合い方はなくなっている。次は倫理・道徳的な足かせ。子が親の面倒をみるという道徳観が強すぎて子が介護を頑張り過ぎると疲れ果て、最期は病院に入ってくれということになる。第三は誤解・経験不足の足かせ。病院で最期まで治療を受けることがベストだという誤解や人の死を身近で見たことがないことでの不安だ。第四は家族に見守られて旅立つというイメージも足かせだ。私は約1500人の方の死に立ち会って来たが、ご臨終はそれぞれ違い、テレビドラマのように感謝の言葉を周囲に伝えてすぐに旅立った方はいない。

「そのとき、あなたや家族はどうする?」:どこでどのように死ぬかではなく、死ぬまでどうやって生きるかが大切だということを、「死生学」を日本に紹介したアルフォンス・デーケン上智大名誉教授が述べている。「人間は1人で生まれて1人で死ぬものだ」とはよく言われるが、生まれ方を自分で選べないように死に方も自分の考えだけでは選べない。死に方は本人の意向がもっとも大切で、私も在宅医療をする前は患者本人のことばかり考えていたが、家族の気持ちや生活も重要だ。本人は亡くなっても、介護してきた家族は生きていかなければならない。介護退職しても再就職できなければ、生活が成り立たなくなる。

 「在宅医療の現状と支援制度」:自宅か老人ホームで亡くなる人の割合は、川崎市が21.6%、全国は18.2%(2013年)という調査結果がある。川崎市は在宅医療が進んでおり、自宅での看取りが多い。たまふれあいクリニックが分析したところ、多摩区内では在宅(老人ホームを含む)で看取る方の人数は2015年実績の340人から2020年673人、2025年1089人と急増する。私たちの訪問診療は、月1回から病状に応じて毎日、自宅を訪問する。自宅でも採血、採尿、心電図や超音波、レントゲンなどの検査や機器を使った治療ができる。緊急事態には24時間365日対応し、入院が必要な時は病院と連携する。患者の最良の療養環境を確保するためケアマネージャーと協力し合い、施設入居が必要な方にはそれを支援する。在宅療養生活には、施設のショートステイやデイサービス、訪問介護などの介護保険サービスや、訪問診療や療養型病院活用といった医療保険サービスのように、多くの支援制度がある。在宅療養で困ったらまず相談していただくこと。私たちはそのお手伝いができる。

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